清暑益気湯(せいしょえっきとう)は「暑気あたり」に即効性あり? 補中益気湯との使い分けとは

漢方事典

清暑益気湯(せいしょえっきとう)は猛暑の体力低下や不調などに用いられる代表的な漢方薬です。真夏の暑さで落ち込んでしまった胃腸のはたらきを改善し、丈夫にして軟便や下痢などの胃腸の不調を改善します。暑さに弱い方、倦怠感を伴うものや食欲の低下などに適しています。

清暑益気湯を構成する9つの生薬

清暑益気湯には胃腸のはたらきを高め「気」や「水」をサポートする人参や甘草、そして水の無駄な発散を抑える黄耆や五味子、水の吸収を改善し利尿薬などにも使われる蒼朮、補血、婦人科の要薬として知られる当帰など、9つの生薬がブレンドされています。

「暑気あたり」に効果を発揮する清暑益気湯

清暑益気湯は暑気あたりに効果を発揮することが知られています。そもそも暑気あたりとはどのような症状のことをいうのでしょうか?

暑気あたりとは、いわゆる夏バテのこと。暑さ負け、夏負けともいわれ、東洋医学においては「注夏病(ちゅうかびょう)」と呼ばれます。口が渇き、食欲低下を感じたり、めまいや身体のだるさ、心労などが症状として挙げられます。

夏バテは、普段の生活習慣にも大きく左右されます。主な要因としては、水分やミネラル不足による脱水症状、食欲不振による栄養不足、室内外の急激な温度変化による自律神経の乱れなどが挙げられます。

早寝早起きで睡眠を十分に取り、食事バランスも考慮するほか、寒い部屋で長時間薄着で過ごさない、お風呂はシャワーで済まさず湯船に浸かるなどの工夫が必要です。それに加えて清暑益気湯をはじめとする漢方薬を補助的に上手く使い、身体を整えていきましょう。

清暑益気湯に即効性はある?

清暑益気湯を構成する生薬は、古くは15つですが、現在は即効性を考えた9つの生薬で処方されています。熱中症で搬送された患者に点滴と清暑益気湯を与えるように、即効性を期待した処方が可能です。子どもや高齢者にも使えるなどのメリットもあり、夏場にはとくに必要な漢方薬といえます。

清暑益気湯と補中益気湯の使い分けとは

体力が低下したときに用いられる漢方薬といえば、補中益気湯もよく知られています。清暑益気湯と清暑益気湯にはどのような違いがあるのでしょうか?

まず清暑益気湯は厳しい夏の日差しで汗をかき、水分が不足し、身体に熱気やほてりを感じる場合の夏バテに向いています。

その反面、冷房病のような汗をかかずに身体を冷やし胃腸のはたらきが低下するタイプの夏バテにはあまり効果を発揮できません。

冷えが目立つタイプの夏バテには、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、帰脾湯(きひとう)、軟便や下痢で悩んでいるなら人参湯(にんじんとう)などの漢方薬のほうが向いています。

処方のポイント

消化器を補強する人参、蒼朮や黄耆を中心に、解熱作用の黄柏、過度の発汗を防ぐ五味子、黄耆、体液を補充する麦門冬、当帰、人参、そして消化器を保護し活性化する陳皮と甘草で構成されます。
暑気あたり、暑さによる食欲不振などに適応します。
酸味のある甘味です。

清暑益気湯が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

暑気あたり、暑さによる食欲不振、下痢、全身倦怠、夏痩せ。

漢方的適応病態

気津両傷。
すなわち疲労感、無力感、息切れ、食欲減退などの気虚の症候と、口渇、咽の渇き、尿量減少などの津虚の症候があるもの。
発熱、腹痛、下痢などの湿熱の症候を伴うこともあります。

清暑益気湯の組成や効能について

組成

黄耆3 人参3.5 蒼朮3 甘草1 陳皮3 当帰3 麦門冬3.5 五味子1 黄柏1

効能

益気健脾・清暑燥湿

主治

脾氣不足・暑湿侵入

◎益気健脾:平素の脾気不足に対して、脾気を補益する治法です。

◎清暑燥湿:暑邪と湿邪を同時に除去する治法です。暑は夏の主気で、陽邪に属し季節性を持ちます。
夏は湿気も多いので、暑邪は常に湿邪と結びついて人体に侵入し、暑湿病をひきおこします。

解説

清暑益気湯は平素から脾虚体質の方が暑湿の侵入を受けた病態に用いる処方です。
暑邪を除去し、気を補う効能があるので「清暑益気湯」と名付けられています。
『脾胃論』中の「清暑益気湯」は本方剤に沢瀉、葛根、神曲、青皮、白北升麻を加味したものです。

適応症状

◇発熱・頭痛

暑邪が侵入して正気と邪気が抗争するため発熱します。
湿邪をともなうため、頭痛、頭重などの表証がみられます。

◇自汗

気虚では汗を固摂する機能が低下します。
また暑邪の侵入によっても腠理(皮膚筋肉の細かいあやで汗を管理する組織)が開き、汗が出やすくなります。

◇口渇

暑邪は陽邪に属し、人体にとって有益な水分である津液を消耗します。
汗が過度に流出すると津液は不足し咽喉部に渇きが生じます。

◇疲労倦怠感

活力の基である陽気が全身に分布されにくくなった症状です。
「重」を主る湿邪の侵入で、身体が重く感じられます。

◇食欲不振

脾気不足によって運化機能が低下する症状です。
消化機能全般が低下し、湿邪の停滞によって便も軟らかくなります。

◇尿色黄・尿量少

暑邪の侵入と、津液の不足により尿の色は濃くなり、量も少なくなります。

◇舌胖大・苔膩

舌胖大は脾気虚を示し、膩苔は湿邪の存在を示します。
暑邪の勢力が強い場合は苔が膩でやや黄色くなることもあります。

◇脈虚

脾気不足のため無力の虚脈が現れます。

黄耆、人参、蒼尤、甘草の4つの生薬は補気薬に属し、脾気不足に対して用いられます。
主薬である黄耆は体表の衛気を補い、固摂機能を強化し、汗を止める効能をもっています。
人参は後天の本である脾胃を補う代表的な生薬で、脾虚には必要不可欠な成分です。
蒼朮は人参、黄耆の健脾作用を補佐するほか、燥湿作用によって湿邪を除去します。
陳皮は理気作用によって、湿邪の停滞によって生じた胸悶、胃脹などの気滞症状を改善し、食欲を増進します。
燥湿化痰の効能もあり、蒼朮の燥湿作用を増強します。
当帰は補血薬で脾気虚による血虚を防止し、麦門冬、五味子とともに体内の陰津不足の状態を矯正します。
麦門冬と五味子は生津作用があり、暑邪の侵入および自汗によっておこる口渇など津液不足を治療します。
麦門冬は生津作用が強く、除煩作用もあるので、暑邪の影響による心煩症状も緩和します。
五味子には収斂作用もあるので自汗の治療にも効果があるでしょう。
黄柏は方剤中、唯一の清熱薬で燥湿作用もあり、暑邪と湿邪が同時に存在する症状に優先的に使用されます。

臨床応用

◇暑湿病

暑邪と湿邪が同時に人体に侵入した諸症状(発熱頭痛、頭重、四肢の倦怠感食欲不振、悪心、下痢など)に用います。
清熱作用はやや弱いので、熱邪より湿邪が多く、そして気虚症状をともなうときにもよく用いられます。
暑気あたり、夏バテ、夏瘦せ、夏風邪に適しています。

◇下痢

夏に限らず、慢性の下痢、脾胃の虚弱(湿症状)、および津液不足による口渇症状、微熱苔がやや黄膩(熱症状)が同時にみられる場合に用いることができます。

長期にわたる下痢は脾を損傷して脾虚を招き、また津液も消耗されます。
停滞した水湿は熱化することも多いので、脾虚津少。
湿熱內蘊のときに清暑益気湯を考えるとよいでしょう。

◇疲労

疲労症状は脾胃気虚、暑邪、湿邪などが原因でも生じるので、健脾、清暑、去湿作用のある本方剤を使用できます。
特に、夏から秋にかけての倦怠感に効果があります。

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