全身性エリテマトーデス(SLE)の診断と治療法

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全身性エリテマトーデス(SLE)は若い女性に多い病気で、皮膚症状をはじめ全身にさまざまな症状を引き起こします。

SLEは自己免疫疾患の一種で、外部から侵入するウイルスや細菌などの病原体から自分自身を守るための免疫システムが、自分自身の体に対して攻撃をしてしまう病気です。ここではSLEの診断と治療について説明していきます。

全身性エリテマトーデスの診断と検査

SLEはさまざまな症状をきたしますが、全ての人が同様の症状をきたすわけではありません。ですので、さまざまな症状を複合してSLEと診断していくことになります。

SLEの診断には1997年に米国リウマチ学会によって示された診断基準が用いられます。この診断基準では、11個の基準が示されています。

11個の基準は、

・皮膚症状

・炎症に伴う症状

・内臓に対する症状

・血液検査で発見される異常

の4つに分類できます。順に見ていきましょう。

◎皮膚症状

①頬部紅斑:顔面にできる皮疹

②ディスコイド疹:前腕などに出現する円形の皮疹

③日光に暴露された皮膚に皮疹が出る症状

④口腔内潰瘍

◎炎症に伴う症状

⑤非びらん性関節炎:骨軟骨の破壊による変形が起こらない関節炎

⑥漿膜炎;胸膜、心膜といった漿膜に炎症が起こります

◎内臓に対する症状

⑦腎障害:ループス腎炎という種々の程度の腎障害をきたします

⑧神経障害:痙攣や精神障害をきたします

◎血液検査で発見される異常

⑨血液学的異常:溶血に伴う貧血、白血球(リンパ球)減少、血小板減少をきたします。免疫による血球破壊が起こることによります

⑩免疫学的異常:直接細胞を攻撃する抗体ではありませんが、種々の合併症をきたす抗体として抗二本差DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体のいずれかの抗体が検出さることがあります

⑪抗核抗体

これらの11項目のうち、4項目を満たせばSLEと診断されます。SLEの症状は出たり消えたりするのも特徴ですから、経過中に1回でも認められればよく、同時に満たす必要はありません。

SLEの検査方法

SLEの検査は簡単な血液検査のみで行われることがほとんどです。ただし、種々の臓器合併症をきたしていると考えられる場合はそれぞれの臓器特異的な検査が行われます。

例えば腎機能障害があれば、皮膚の表面から腎臓に針を刺して腎臓の組織を採取して顕微鏡で確認する腎生検検査を行います。

心筋障害があれば心臓超音波検査などを行ったり、原因不明の炎症所見があれば炎症の起こっている場所を調べるためにCTなどの画像検査を行ったりします。症状の出方によってこのあたりの検査は変わってくると思っていただければ間違いないと思います。

なお、2019年に日本でのガイドラインが発行されました。やや専門的で複雑ですのでここでは紹介しませんが、興味のある方は調べてみるとよいでしょう。

全身性エリテマトーデスの治療の目標

感染症であれば病原体を体の中から排除すれば治りますし、がんであればがん細胞を手術で取り出したり、薬や放射線でがん細胞を破壊したりする治療を行います。

しかし、SLEは自分の免疫が自分の体を攻撃する疾患で、原因は自分自身の体にあります。しかも免疫をからだから完全になくすわけにはいきませんから、SLEを完全に治療することはなかなか難しいです。

ですので、SLEの治療においては、次に見るように「低疾患活動性」や「寛解」が目的となります。

低疾患活動性とは?

低疾患活動性(Lupus Low Disease Activity State:LLDASと略します)とは、2016年頃から世界的に提唱されているSLEの病勢コントロールの目標です。

低疾患活動性は、

①疾患活動性が低く、かつ臓器障害や貧血などの状態がない

②以前と比較して新規のSLE症状がない

③医師による病勢状態評価が高くない

④プレドニゾロン(ステロイド薬)が1日7.5mg以下

⑤免疫抑制薬か生物学的製剤が標準的な維持量で維持できている

の5項目をみたす状態を言います。この状態が長いほど長期の予後が良いことから治療の目標になります。

寛解とは?

寛解(かんかい)とは、治療を行っていなくても病気が一見全く無いように見える状態のことを指します。

治癒と呼ばないのは、しばらく経つと再度症状が出現する可能性があるためです。免疫や血液の病気の際には目に見えないところで原因が体の中にくすぶっている可能性があることから、治癒という言葉ではなく寛解という言葉が使用されます。

SLEの場合は自己免疫疾患で完全に病原を取り去る治癒を目指すことはできませんから、寛解や低疾患活動性を目指すことになります。

ただし、自分自身の免疫を非常に強力に抑えることは危険であり、寛解に至ることは実際にはかなり困難です。そのため日常生活を問題無く送れる程度に低疾患活動性を目指す治療がメインとなります。すなわち「低用量の薬を飲み続けることで症状が出ないで維持できる状態」が治療の目標になることが多いといえます。

副腎皮質ステロイドによる治療

副腎皮質ステロイドはもともと自分自身の副腎皮質というところから分泌されるホルモンです。薬剤として投与し血中濃度を高めると免疫を抑えることから自己免疫疾患などでよく使用されます。

SLEでもほぼ必ず使用され、病初期や病勢が強いときには増量し(特に高用量のステロイドを投与することをパルス療法と言います)、病勢が弱まってきたら減量するようにコントロールします。

副腎皮質ステロイドの副作用

副腎皮質ステロイド薬は非常に効果が高いのですが、副作用が問題となります。副作用には免疫抑制による易感染性(感染症にかかりやすいこと)、糖尿病、脂質異常症、高血圧、骨粗鬆症、ステロイド精神病(うつ病や不眠)、中枢性肥満があります。中枢性肥満とは、四肢は痩せてくる一方で、顔や体幹部に皮下脂肪が沈着してくる肥満のことで、特にまん丸な顔を特徴とするムーンフェイスを呈します。

また自分自身の副腎皮質がホルモンを放出しなくても良いと判断して萎縮してしまい、自前の副腎皮質からのホルモン分泌量が減少します。そのため、急にステロイドをやめると副腎不全と言ってホルモン不足の症状が出現します。

これらの副作用を抑えるため、可能な限り低用量で維持ができるように、症状が落ち着いたら速やかに投与量を減量していきます。LLDASの基準にあるように、7.5mg以下が一つの目標です。

免疫抑制剤による治療

ステロイドと同じように免疫を抑えるために免疫抑制薬も使用されます。いくつかの種類があり、病勢が強いときにステロイドに併用されることが多いです。こちらもやはり使用によって感染症にかかりやすくなりますから、過度には使用しないようにします。

生物学的製剤による治療

SLEに使用する生物学的製剤は、人や動物の体内にある抗体と同じような構造をした物質です。生物学的製剤の投与により、一部の免疫の作用を弱めることで自分自身に対する攻撃を弱め、症状の緩和を目指します。

ただし一部の免疫に対して特異的に作用するとはいえ、一部の免疫が抑制された結果として感染症にはかかりやすくなります。

生活の留意点

免疫は全身の状態によって大きく働きを変えます。そのため、まずは睡眠のリズムや食事の量など、規則正しい生活を心がけることが重要です。ストレスも免疫に影響しますから、ストレスのかからない生活やストレスを適度に発散することも必要です。

日光を避けることも重要です。日光過敏の症状がある場合はもちろん、症状がなくても日光を過度に浴びることで身体にストレスがかかり、SLEの増悪につながることがあります。

内服薬には副作用が伴います。かといって急にやめることで症状が急激に増悪したり、ホルモン枯渇などによる症状が出現したりすることがあるので、医師の指示に従い、処方された薬を正しく内服することが肝心です。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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