疼痛とは?痛みの評価・検査・診察について解説

痛みは誰しもが嫌だと感じる症状の一つです。痛みがあるだけで筋肉がこわばり、ストレスを感じ、縮こまってしまいます。痛みを感じるかもと思うだけでそのことが嫌になり、避けようとします。
ここでは、痛みとはどのようなものなのか、痛みを医学的にどのように評価するのかを解説します。
「疼痛」とは?「痛み」との違いはある?

疼痛という言葉があります。疼痛とは、「痛み」のことを医学的に述べた言葉です。ただし、多くの場合、疼痛は身体的に感じる痛みのことのみを取り扱い、精神的な痛みは含まないと考えることが多いです。
ここでいう「精神的な痛み」は、「心が痛い」と表現されるような気分の障害のことで、精神的な原因で体の痛みを感じている場合は疼痛と捉え、疼痛治療の対象となります。
一般的には、「疼痛」=「痛み」と考えておけば問題ないでしょう。
疼痛の種類
疼痛の種類にはどのようなものがあるでしょうか。医学的には大きく分けて3つの種類の疼痛があります。
1つ目は体性痛です。皮膚の痛み、筋肉の痛み、骨の痛みなどで、ずきんずきんと痛く、触ると痛いのが特徴です。
2つめは内臓痛です。お腹が痛い、胸が痛いといった痛みで、じわじわと痛く、体を動かしてもあまり痛みには関係なく、鈍い痛みです。
3つめの痛みは神経障害性疼痛です。正座をした後の足のしびれのように、ジンジンとする痛みです。それぞれの痛みが独立して存在する場合と、混合して存在する場合があります。
疼痛の評価の仕方

疼痛は他人には分からない症状です。そして同じような痛みがあるはずなのに、人によって感じ方が全く違うことがよくあります。
身長・体重のようにはっきりと数値で表せるわけでもなく、貧血や臓器の異常のように検査をすれば数値ではっきり表せるわけでもありません。
ここからは、そうした疼痛をどのように評価するのかを解説します。
問診
まずは問診を行います。痛いから痛み止めを使いましょう、だけでは鎮痛薬が有効に使われたかが分かりません。もしかしたらほとんど効果が無い鎮痛薬を使ってしまっているのかもしれず、副作用だけがでてきてしまって後悔することもあるでしょう。
ですので、まず問診をすることで痛みの原因を探り、痛みの状態を確認します。
問診の際には、
①痛みを感じ始めた時期
②痛みを感じた原因(怪我や病気などのきっかけがあるか)
③痛みの原因となるようなことはあるか
④痛みの程度
⑤痛みによる影響はどの程度あるか。日常生活はどの程度傷害されているか。
⑥痛みの性状
⑦痛みがよくなったり悪くなったりする条件はあるか
といった内容を聴取します。これにより、痛みの原因をある程度推察し、診断と治療に結びつけていきます。
VASスケール
疼痛は客観的な数値で表すことが難しいものです。しかし、疼痛の変化や重症度を見るために、種々のスケールがあります。
VASスケールは10cmの物差しを利用します。そして、「全く痛くない状態」を0cm、「考えられる中で最も痛い状態」を10cmの場所とし、今の痛みはどれぐらいなのかを、0cmから10cmの間で指さしてもらいます。
その長さを痛みのスコアとして利用するわけです。例えば最初は7.2cmのところを指さしていたのが、痛み止めを使用することで2.7cmのところを指さすようになったのであれば、「痛み止めの使用でVASスケールが7.2から2.7まで改善した」と表現することができるようになります。
NRSスケール
NRSスケールもVASスケールと同じように、「全く痛くない状態」を0、「考えられる中で最も痛い状態」を10とし、評価をします。
VASと違うのは、数字を口頭で述べてもらうことです。基本的には整数の数字しか取り扱わないので11段階(0~10)の評価となります。道具を用いないので簡便ではありますが、やや直感性に劣る面があるといえます。
フェイス・スケール

フェイス・スケールはイラストが描かれた用紙を使用して行う評価方法です。よく利用されるのは6つの表情が書かれたイラストで、左端に笑顔のイラスト、右端に痛みで涙を流しているイラストが書かれており、その間は左から右に進むにつれてだんだん痛みが強くなっているようなイラストが描かれています。
評価する際には、このイラストを患者さんに見せて、今の痛みを表す表情を選んでもらうことで評価を行います。数字や検査の意味を理解しづらく、VASやNRSスケールが使用しづらい小児や高齢者に使用されます。
見た目がわかりやすいのですが、そのときの心理状態に左右されるなど客観性は劣ります。
疼痛の診察と検査の方法

疼痛の治療のためにはその疼痛の正体を突き止めることが重要です。疼痛には種類があり、それぞれに効果が高い薬剤、効果が薄い薬剤があります。
特に神経障害性疼痛は原因が体表面から見ても分からなかったり、血液検査や一般的な画像検査だけでは分からなかったりするので、種々の検査を行うことで、疼痛の原因部位を検索していきます。
筋力検査
神経障害性疼痛の場合、感覚を伝える神経の障害で痛みを感じるのですが、感覚を伝える神経だけがダメージを受けることはあまりありません。筋肉を動かす指令を伝える運動神経も同時にダメージを受けることが多くなります。
運動神経が完全に障害を受けるとその神経が命令を伝える筋肉は全く動かなくなりますが、障害が軽度の場合は、運動自体はできることが多いです。しかし徐々に筋肉が痩せていき、筋力の低下が見られるようになります。
痛みが見られる領域の近くの筋力が低下した場合は神経の障害による疼痛を疑います。
知覚検査
痛みを感じる部位の周囲で、触覚や痛覚、温度覚などの感覚に異常がないかを確認します。ここで異常があれば、末梢神経かもしくは脊髄や脳などの中枢神経に損傷が起きている可能性を考えます。
深部腱反射検査
深部腱反射とはいわゆる脊髄反射のことです。よく用いられるのは膝の下辺りをたたくとびくっと膝下を蹴り上げる動きをする膝蓋腱反射です。
これは、腱をたたくことで急に腱が引き延ばされたことを感知し、膝上の筋肉を収縮させることで筋肉、腱の長さが保たれるようにしようとする体の防衛反応です。
感覚が伝わってきた脊髄ですぐに運動神経に情報が伝達され、筋肉を収縮させるよう命令が伝わります。つまり、感覚神経や運動神経の障害があれば深部腱反射は弱くなります。
一方で、腱反射が起こりすぎると不都合がありますから、脳から脊髄反射を起こしすぎないようにという指令が脊髄には伝わっています。しかし脊柱管狭窄症などで脊髄の神経伝達能力が低下している場合、脊髄反射を起こしすぎないようにという指令が滞ってしまいますから、腱反射はかえって強くなるのです。
そのため、同じような感覚と運動の障害を認めるような病態でも、腱反射が減弱していれば脊髄より末梢での神経障害、腱反射が亢進していれば脊髄か脳での神経障害を疑うのです。このように種々の腱反射を確認することで、神経障害の場所を推定します。
血液検査

疼痛の原因検査で行う血液検査では主に炎症反応を確認します。炎症によって起こっている疼痛であれば、炎症を抑える薬剤を使用すると疼痛が治まることが多くなります。
感染症による症状かどうか、あるいは内臓などの異常によって起こってきている疼痛ではないかなど、様々なことを血液検査から推定します。
画像検査
よく行われるのは単純レントゲン写真、CT、MRIです。レントゲンは簡便な撮影ができますが、骨の大まかな構造と位置関係を見ることができるだけで、詳細な構造を確認することはできません。
CTは骨の状態を見ることができますが、筋肉や腱、神経などはなかなか分かりません。MRIは筋肉や脊髄の性状を確認することができます。ただし、撮影自体が高額で手間もかかりますから、頻用はしません。状態に応じて必要な検査を行います。
電気生理検査
神経の伝達速度などを筋電図や感覚刺激に対する神経の反応を測定することで評価することがあります。自律神経の障害を確認するために、心電図や体位変換による血圧変化のテストなども行うことで、神経障害を包括的に診断していきます。
このようにして、問診に加えて種々の診察と検査を行うことで疼痛の原因をはっきりさせることができれば、効果的な鎮痛法の選択につながります。