背中の痛みは膵臓がんの可能性も?膵臓がんの症状とは

背中の痛みは腰などの痛みと同様に比較的よくみられる痛みです。しかし、背中の痛みの中には稀に膵臓がんによる痛みが紛れ込んでいます。
ここでは、背中の痛みで膵臓がんを疑う理由、膵臓がんの症状、膵臓がんの緩和ケアについて解説します。
膵臓がんとは

膵臓がんは胃がんや肺がん、直腸がんに比べて患者の数が少なく、マイナーながんといえます。しかし、膵臓がんは発見されたときにはすでにかなり大きくなっていたり、全身に転移していたりして手術ができず、早期に命を失ってしまうこともある怖いがんです。
膵臓は、胃の裏側あたりにある横に細長い臓器です。膵臓の働きは主に膵液という消化液を作り消化管に分泌することと、インスリンという、糖分を細胞の中に取り込ませる働きをもつホルモンを作り血中に分泌することです。
膵臓の中には膵管という管が通っていて、その中を膵液が通ります。膵管は徐々に集まって主膵管という大きな管となり、十二指腸に開口します。ただここの構造は複雑で、単純に膵管だけが十二指腸に開口するのではなく、肝臓で生成された胆汁を流す胆管という管も膵臓の中を通り、膵管と胆管が同じ場所から十二指腸に開口し、胆汁と膵液を分泌するのです。胆管と膵管はともに括約筋に包まれており、膵液が胆管に、あるいは胆汁が膵管に流れ込むことはないような構造になっています。
膵臓がんは膵臓に発生するがんです。多くの場合は膵管の細胞ががん化し、増大します。がんができる部位によって、十二指腸近くの膵臓にがんができる膵頭部がん、十二指腸から遠い部分にがんができる膵体部がんや膵尾部がんに分けられます。これらの違いは後に述べる症状の違いに表れてきます。
膵臓自体は周りを脂肪組織に囲まれているため、おおきくなってもなかなか周りの臓器を圧迫することなく、症状があまり出現しません。一方で、膵臓の周りにはリンパ管や血管が多くあるため、早期にそれらの脈管に浸潤し、遠隔転移を起こします。症状に気づかない間に全身に転移していることも多く、予後が非常に悪いがんとして知られています。
背中の痛みで膵臓がんを疑う理由

膵臓がんの初発症状が背中の痛みであることは比較的多いです。
膵臓の後ろにはリンパ管や血管の他に、腹部の内臓の痛みを伝える神経が集まっている腹腔神経叢(しんけいそう)というものがあります。膵臓がんが増大すると、その神経叢に浸潤し、痛みを感じます。
かといって、背中の痛みがあればすぐに膵臓がんを疑うのは医師でもなかなか難しいものです。一般的には膵臓がんなど神経の障害が原因の痛みの場合、持続する痛みが出ることが多いといわれています。
体を動かして痛いのであれば筋肉や骨の痛みである事が推察されますし、食後や食前に痛みが強くなったり、痛みに波があったりする場合は消化管由来の痛みを疑います。しかし、確実にこのような痛みであれば膵臓がんだ、といえることは稀です。
膵臓がんの症状

膵臓がんの主な症状としては背部痛の他に腹痛、腹部膨満、黄疸、尿や便の色が薄い、体重減少などの症状が挙げられます。
腹痛を起こすのは急性膵炎を起こしている場合が多いです。もともと膵液はさまざまな消化酵素を含んだ消化液です。タンパク質、糖質、脂質いずれも溶かすため、膵液が膵管や消化管の外に漏れ出すと、自分自身の体を溶かしてしまうので非常に重篤となります。
膵液の流れが何らかの理由で阻害されると、膵液が流れなくなってうっ滞し、周囲の組織を溶かし始めます。これが急性膵炎です。急性膵炎を起こすのは多くの場合胆石性ですが、膵臓がんも膵液の流れをうっ滞させるため、急性膵炎を起こすことがあります。急性膵炎では非常に強い痛みが生じます。
膵頭部がんの症状
膵臓がんの中でも膵頭部がんの場合、がんが膵管ではなく胆管を圧迫し、胆汁の流れが悪くなることによる症状が出現する場合があります。胆汁は便の色を着色するので、胆汁の分泌が悪くなれば便の色が白っぽくなってきます。
また胆汁が流れずうっ滞した場合、肝臓で精製された胆汁が血液中に漏れ出していきます。胆汁の成分のうち、ビリルビンが血液中で増加すると黄疸といって皮膚や眼球の白目の部分が黄色っぽく着色されてくる症状がみられてきます。ビリルビンが尿に排出されれば尿の色が黄色く色づきます。これらは胆汁がうっ滞することによる症状ですから、膵頭部がんでのみみられ、膵体部がんや膵尾部がんではなかなかみられない症状となります。
糖尿病との関連
膵臓がんが増大すると糖尿病が急に増悪する場合があります。膵臓は糖分を細胞に取り込ませるインスリンを分泌する臓器ですから、腫瘍の増大で膵臓の機能が落ちるとインスリンの分泌が低下し、糖分が血液中に増加し、血糖値が上昇します。
自覚症状はあまり無いことが多いのですが、のどが渇きやすくなったり、尿が多くでたりといった血糖値が上昇した際にみられる症状がみられる場合があります。
その他の症状
他には腫瘍が増大した場合、腹部の膨満を来したり、がんによる消耗から体重減少を起こしたりすることがあります。腫瘍が転移した場合には転移先の臓器の種々の症状が出現することがあります。
しかし、いずれの症状もがんがある程度増大してきて始めてみられる症状になります。繰り返しになりますがその頃にはすでに転移を来している場合が多く、手術適応にならないことも多いです。日頃から検診で膵臓をチェックしておくことが重要となります。
膵臓がんの治療
膵臓がんが転移を来しておらず、条件がそろった場合には手術を行います。膵臓は腹部の中でも奥にあり、また膵頭部を中心に複雑な構造をしていますから大規模な手術となります。
膵頭部がんの場合は、膵液の流れ、胆汁の流れ、食物の流れいずれも影響しているため、これに関連する部位、つまり胃の遠位から十二指腸、胆管、胆嚢、膵頭部といった広い範囲の切除(膵頭十二指腸切除術)が必要になります。
膵体部・膵尾部がんの場合は、膵臓の後ろに脾臓を栄養する脾動脈が有り、その動脈も一度に切除する必要がありますから、脾臓も同時に摘出する膵体尾部脾臓摘出術となります。
膵臓がんの緩和ケア

手術ができない場合は、化学療法と放射線療法を行う場合もありますが、それらの治療と並行して、あるいは積極的な治療を行わずにがんによる症状を緩和する治療を行っていきます。
痛みに対しては麻薬を中心とした鎮痛薬が使用されます。それに加えて、神経ブロックも良い適応となります。先ほど述べたとおり、膵臓の背面にある神経に腫瘍が浸潤することで強い痛みを感じます。そのため、背部からCTなどで場所を確認しながら神経の近くまで針を差し込み、局所麻酔薬を流すことで痛みが伝わるのを抑えることができます。うまく痛みが治まった場合、多くの場合はアルコールを注入することで神経を変性させ、永続的に痛みを感じなくすることができます。
麻薬を使用すると吐き気や便秘が起こります。制吐薬や緩下剤を使用します。先ほどの神経ブロックを行うと下痢となりますから、制吐薬や緩下剤の使用がなくても便通が良くなるといった良い効果も得られます。
血糖コントロールが悪くなった場合、内服の糖尿病薬よりインスリンの注射が選択されます。内服の糖尿病薬は膵臓からのインスリン分泌を促進させるものなどがありますが、そもそも膵臓からのインスリン分泌ががんによって阻害されている状態ですから、インスリンを外部から補充することで血糖コントロールを行います。
がんが増大し、消化管の流れを阻害するような場合には、その場所の前後をつなぐバイパス手術を行うことで食事を継続できるようにする場合があります。ただし、腹腔内の播種によって手術が困難な場合も多くあります。
<執筆・監修>

徳島赤十字病院
麻酔科 郷正憲 医師
麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」