胃がんで痩せる理由とは?手術後の食事のポイントを解説

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多くの胃がん患者さんでは、腹痛や食欲不振、嘔気症状などが高率に認められると同時に往々にして体重が減少します。胃がんと診断された場合、約半数の割合で体重減少が認められます。

ここでは胃がんに伴う体重減少を取り上げ、原因や食事のポイントについて解説します。

胃がんで痩せる理由

胃がんになると痩せる原因は大きく分けて2種類あります。

ひとつ目はがん病変に伴って食事が摂取できなくなること、もうひとつは悪性腫瘍による悪液質状態です。

胃に形成されたがん病巣が増大して消化管の通過障害が引き起こされると自然と食事が摂れなくなるのは容易に理解できます。がん病変に伴う疼痛症状や不安な感情などによって食事が摂れなくなる場合も想定されます。

そして、「がん悪液質」とは簡便な栄養療法で改善することが難しく、身体の筋肉量減少を認める複合的な栄養不良状態を指します。この段階になれば、がん病変に伴って体重減少をきたすことが指摘されています。

がん細胞が発育するために必要なエネルギーを取得する際に、がん患者さんの体内で筋肉や骨を分解しタンパク質や脂肪成分を崩壊させて生体代謝に悪影響を及ぼします。要するに、患者さんの体内の栄養分を奪い取るというわけです。

胃がんの手術後の体重減少

胃がんに限らず、がん全般において術後だから食欲がない、食物の摂取量が少なくて当たり前ということではなく、がん手術の後だからこそ余計に栄養状態を良好にして体力を向上させ、創部を治癒させる必要があります。

一般的には、胃がんの手術を実施した直後は絶飲食の状態がしばらく続いて、栄養摂取量が少ない期間が設けられますので、一定程度は体重減少することが知られています。

平均的には術前状態と比較しておおむね5㎏くらい体重が減少するケースが多いですが、ある程度のレベルまで痩せたのちに必要エネルギーに達した時点で体重は下げ止まり、その後は食事量が増加するにしたがって徐々に体重が増加していきます。

多くの場合、胃がんに対して切除手術を施行後に体重が安定化するまではおよそ半年から1年程度かかることが知られています。胃がん術後には食事量が減って消化機能が低下するために体重減少を回避することは困難であるといわれています。

また、胃がんの手術後、あるいは後述する抗がん剤治療の副作用によって食事が十分に摂取できなくなることも予測され、体重を維持するために必要な食事内容を取れない場合にはおのずと体重が減少して痩せ症状が認められます。

化学療法の影響による食欲不振

昨今では、特に胃がんの術後にがん病巣を再発予防するために補助化学療法が行われます。

2007年以降、リンパ節転移を認める進行胃がんで術後に補助的な化学療法を実施した患者さんにおけるがん病巣部の再発率は、非実施者と比較して有意に減少することが判明してきました。

多くの医療施設では、胃がんの治療ガイドラインに基づいて、胃がん術後の患者さんに対して原則1年間に渡ってティーエスワン(TS-1)と呼ばれる抗がん剤を処方していると思われます。

ところが、これらの抗がん剤の代表的な副作用として悪心、嘔吐、食欲不振などの症状を認めることがあり、ただでさえ胃切除後で食事が摂取しにくい中でTS-1を服用して、さらに体重が減少して栄養状態が悪化する悪循環につながる危険性もあります。

胃がん術後の状態では、胃の容量が物理的に減少して通常量の食事摂取ができなくなるのみならず、化学療法の副作用によって食欲不振が引き起こされて低体重、低栄養状態を悪化させ、術後の容態回復をさらに遅延させることが懸念されます。

胃がん手術後の食事のポイント

胃がん手術後の体重減少にそなえ、食事のとり方のポイントを紹介します。

胃腸に負担がかかる食べ物

胃を切除したあとは、消化管の機能が低下しているため、基本的には日常的に消化の良い食品を摂取して、調理を上手に工夫する必要があります。

例えば、おかずには白身魚、ささみ、豆腐などできるだけ脂質が少ない食物を選択して、さらに体内で消化しやすいように食品を柔らかく煮る、ペースト状にするなどの対策が有用であると考えられます。

また同時に、消化しやすい食品を摂取することで逆流性食道炎を予防して胸やけ症状を自覚しないように努め、胆汁分泌を抑えるために胃腸に負担がかかりやすい脂もの類はできる限り控える、といったことも大切です。

さらに、胃や腸管を刺激しないように香辛料、炭酸飲料、カフェイン、アルコールなどは日常生活内で極力摂取しないようにし、料理の味付けは薄味にして、極端に熱い食品や冷たい食事は取らないように心がけましょう。

食べやすくするための工夫

胃がんの手術を実施したあとは、残存している胃内容が術前のように大きくなって元通りの状態に再生されるわけではないので、胃が小さくなった分だけ消化や吸収に関する能力は低下することになります。

もちろん胃以外の小腸や大腸など他の消化管組織で消化吸収機能を補助することになりますが、術前と比してその機能は相対的に低下しますので、胃がん切除術後では少しでも消化吸収を助けるために食習慣を工夫する必要があります。

原則として、食事に関しては厳しい制限は設けられていませんが、術後特に注意すべき食生活に関するポイントがありますので紹介します。

まずは、どんな食物でもよくかんでゆっくり食べることを意識しましょう。食べ物をよく咀嚼することで食事内容物は細かくなって、消化しやすい状態になるからです。

次に、1回あたりの食事摂取量を減らして食事を取る回数を多くしましょう。がん病巣を含めて胃を切除すると胃は物理的に縮小しますので、食物を一気に詰め込みすぎると消化管が自然と苦しくなります。1回における食事量をできるだけ減らして、その分摂取回数を多く設けるように努めてください。

1回の食事で摂取できる量や食事回数を減らすスピードなどは個人差があり、残存している胃の大きさや普段の生活環境などにもよりますので、自分にとって最適な食事習慣を見極めていくことが重要です。

そして、食べ物の消化や吸収を少しでも補助するために、食事をある程度決まった時間に摂取することも大切です。

意識して摂取したい栄養素

胃がんに対して胃を一部、あるいは全部を切除すると、胃の食べ物を貯留する機能が障害されると同時に、消化能力や吸収機能が相対的に低下することが知られています。

消化吸収能が低下するにつれて、胃液の分泌量も低下し、たんぱく質や脂質成分も消化吸収されにくくなります。そして、ビタミンB12やビタミンD、カルシウム、鉄などの必要なビタミンやミネラルの吸収が障害されることにつながります。

特に、鉄分やビタミンB12 が吸収されにくくなると、貧血症状を呈するリスクが高まって全身がだるくなりふらつく場合もあります。

胃がん術後に食事量が徐々に増加しても消化吸収能力はどうしても低下するため、術前の体重ラインまでなかなか復帰しないことも多いと言われています。

体重が思うように増加せずに食欲不振も改善されないケースでは、手軽に効率よく摂取することができる高カロリー、高栄養分を含有した栄養補助食品なども上手に活用してみることをおすすめします。

近年の補助食品は、その味や形状も多種多様であり、胃切除後に不足傾向であるたんぱく質やカルシウム、鉄分などを気軽に摂取することができる商品も多く見受けられます。

まとめ

胃がんで痩せる理由、胃がん手術後の食事のポイントなどを中心に解説してきました。

胃がんでは病変部の存在によって食べ物が通過しづらく摂取しにくい状況に陥る、あるいはがん病変に伴って悪液質状態になることで体重が容易に減少し痩せてしまうことが知られています。

胃がんに対して切除術を受けた人が術後にも快適な生活を過ごすために、普段の食生活や補助食品などを上手く活用して良好な栄養状態を確保することが大切です。

体重が手術前まで回復していなくても、おいしく食事が摂取でき、歩いていても気分不良やふらつきなどが起きず、日常生活を差し支えなく過ごせる状態を目指しましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

TOTO関西支社健康管理室  室長(産業医) 甲斐沼孟 医師 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月より現職。 消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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