痰の色と病気の関係…COPDにおける痰の特徴とは?

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痰といえば、風邪の際に咳とともに出てくる粘っこい物質のことを思い浮かべる人が多いことでしょう。

しかし、風邪に限らず、呼吸器の病気であればさまざまな病気で痰が出ます。また、心臓が原因で痰が増える場合もあります。

ここでは痰を取り上げ、色による違いや、COPDにおける痰の特徴などについて詳しく解説します。

痰(たん)の役割

痰と言えば、「かーっ、ぺっ」と吐き出したり、風邪が悪くなったときに咳とともに排出されたりしてくるイメージですが、そもそも痰とは何なのでしょうか。

口の中から分泌される唾液や、胃の中から排出される嘔吐とは違い、気管から排泄されるのが痰です。

痰のもととなるのは気管や気管支の内側表面にある杯細胞(さかずきさいぼう)から分泌される粘液です。この粘液は正常なときにも常に分泌され、気管や気管支の中を常に潤しています。また、異物が気道の中に入ってきた場合、粘液で絡め取り、それ以上奥の気管支や肺に入り込まないようにする役割を担っています。

気管や気管支の内側表面には杯細胞以外に、線毛という特殊な構造があります。この線毛は自分自身の力だけで動くことができる、細い毛のような構造物です。線毛は常に動いていて、気管支の奥の方から気管の入り口の方まで痰や異物を排出します。

つまり、普段から痰の元となるような粘液は常に気管から出てきているのです。その量は毎日80~100mlと言われています。私たちが特に症状もなく健康なときに痰が出ていると感じないのは、知らないうちに痰が気管から排出されて、のどから胃の方へ流れ込んでいるからなのです。

しかし、何らかの原因で痰が増えたり性状が変化すると、のどに違和感がでることもありますし、痰が出てきたのを口から排出したりします。

特に痰が増えたり、性状が変化したりするのが感染症の原因となる微生物が侵入したときです。細菌やウイルスが気管に侵入すると、それらの物質に対して体の免疫が反応します。微生物を退治するために白血球という免疫を担当する細胞が気管の中に出てきて、微生物と反応を起こします。

反応を起こした白血球と微生物は粘液と混ざって気管支、気管から排出されます。普段の粘液中心の痰に比べて混ざっている物質が多いので、痰の量は多く、また粘稠性が高い痰となります。

これ以外にも、気管や気管支、肺の中で炎症が起こった場合、痰は多くなり、痰が出ていることを自覚します。痰が増加した場合、その原因によって痰の性状が変わり、何が原因で痰が多くなったのかをある程度推定することができます。

痰の色と病気の関係

痰の色が変化するのには理由があり、背景にある病気や現在の体の状態を知る手がかりになります。

透明~白い痰

痰の色はもともと透明から白色です。そのため透明だとか、白い痰が出ている場合は何らかの物質が気管に入ってきたというよりも、自分自身の痰を出す反応が強く起こっていることを想定します。

多くの場合は気管支喘息を想起します。気管支喘息の場合は自分自身の免疫反応が過剰となり、気管や気管支の中で炎症が強くなります。炎症が強くなると、気管支を保護しようとして杯細胞からの粘液分泌が増加し、痰が増加します。

痰の中に入っている異物が増えるわけではありませんから、痰は元々の透明や白色で、量が増加したことを認識します。また気管支喘息の場合、痰の中に炎症反応の徴候が見られることがあります。これによって喘息のタイプを鑑別することもあります。

黄色・緑色などの痰

黄色の痰は一般に膿性痰といわれます。これは、さまざまな感染症に対して自分自身の免疫が反応した結果、微生物とともに大量に白血球が気管や気管支の中に出てきた結果、一つの塊として出てきた際に見られる痰になります。

この痰は色が黄色いだけではなく、含んでいる物質が多いのでドロドロで、非常に粘り気が強い痰になります。痰を出そうとしても、気管や気管支の壁に張り付いてなかなか出てこないこともあります。

一般に、白血球が多ければ黄色になりますが、原因となる微生物によって痰の色が変わってきます。緑膿菌の感染であれば緑色、黄色ブドウ球菌であれば黄緑色、肺炎球菌では鉄さび色といわれます。またクレブシエラという菌の感染症では特に粘稠性が高く、糸を引くような痰となります。

赤色の痰

赤色の痰は、何らかの原因で血液が混じっている痰です。

元々持病がなくても乾いた咳が長く続いたときなどに赤みが混じった痰を出すことがあります。これは、気道のどこかに傷がついて血液が混じった状態ですから、咳が治まって気道の傷が治ってくれば自然と軽快してきます。

しかし、長引く血痰は、根底に何らかの病気があることを想定します。例えば肺がんが考えられます。がんは血流が豊富である一方、もろい組織です。そのため、肺がんでもがんの組織が壊れたときに出血し、それが気管から痰として出てくることがあります。

結核も同様に血痰を来します。結核の場合、肺の中に結核菌が塊を作ります。すると、がんと同じようにそれが壊れることによって出血し、血液が痰の中に混じることで血痰となります。

他には気管支拡張症、Goodpasuture症候群などの持病によって血痰を来す場合があります。

血液の量が多く、咳と同時に血液を口から吐き出すような状態を喀血ということがありますが、意味は血痰とほぼ同じです。また、胃や食道などからの出血を吐き出すものを吐血といい、原因は血痰とは異なり対応もまったく異なります。

薄いピンク色の痰

一般に、泡沫痰といわれる痰で、ピンク色で泡立ちが強く、粘り気がほとんど無いさらさらの痰です。このような痰は、ほとんどの場合心不全によって起こってきます。

心臓の中でも特に左心房、左心室は、肺から戻ってきた血液を全身に送り届ける仕事をしています。心臓の収縮力がおちたり、心臓が送り出せる量を超える血液が肺から戻ってきたりした場合、心臓が血液を送り出すのが間に合わず、肺の血管に血液がうっ滞してしまいます。

血液が肺の血管にうっ滞すると、肺毛細血管の中の圧が上昇し、血液中の水分が肺の中にしみ出してきます。この水分が痰と混じって口から排出されるのです。血液から出てきた水分ですから赤血球も少量混じり、赤色です。粘液ではなく水分なので痰の粘稠性は低くなり、さらさらになります。また肺の中で空気と混じり合い、泡立った痰になります。

他の痰は気管や気管支、肺の治療になりますが、この泡沫痰だけは、治療が心不全の治療になります。

COPDにおける痰の特徴と対処法

COPDの場合、慢性的に気管や気管支、肺に炎症が起こっていますから、痰が多く産生される状況になっています。しかしその一方で、息を吐き出す力が落ちていたり、気管支が狭くなっていたりするので、痰がたまりやすく、なかなか吐き出せなくなります。

また、普段は白色の痰が多くなるのですが、COPD患者は感染症にかかりやすく、よく肺炎を起こします。そのため、少し体調が悪くなると痰が粘っこく、色が黄色くなってくるということはよく認められます。

肺炎を予防するためには、痰を常に排泄しやすくすることが重要です。気管や気管支の通りをよくするため、常日頃から呼吸リハビリテーションを行い、息を吐き出しやすくする環境を整えることは痰を排出しやすくすることにつながります。

薬剤としては、いわゆる痰切りを処方されることが多いです。痰切りは、痰の粘稠性を下げる薬です。痰がさらさらになることで、排出しやすくします。このようにして痰を出しやすくすることで、肺炎になってしまうことを防ぎます。

痰の性状が変化したときには注意が必要です。繰り返しになりますが、COPDの場合は肺炎にかかりやすい状態にありますから、痰は肺炎を起こしているセンサーになります。また、COPDの患者さんはほとんどの場合喫煙を多くしていますから肺がんのリスクもあり、痰に血液が混じることでがんに気づくこともあるので、こちらも注意すべきといえます。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科 郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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