逆流性食道炎が治らない!?考えられる原因と、やってはいけないこと

お悩み

『健タメ!』読者の皆さまからいただいくお悩みとして、意外にも数が多い病気である「逆流性食道炎」。

逆流性食道炎は、胃液や消化中の食べ物が逆流して胸焼けなどの症状が現れる病気です。

「胸焼け」と聞くと、深刻な病気というイメージからは遠く、放置していても大丈夫なのでは?と思われるかもしれません。

しかし、逆流性食道炎の中には症状の重いものや、治療を続けていてもなかなか治らないものなど、深刻なケースも含まれています。

読者の皆さまからの体験談を参考に、お悩みに関する原因や対処法を、医師がお答えしていきます。

今回は「逆流性食道炎」をテーマに、国家公務員共済組合連合会大手前病院の救急科医長・甲斐沼孟先生にお話を伺ってみました。

医師から「逆流性食道炎」の診断が…このまま治らないのでは?と心配に

佳菜さん(女性)からご質問をいただきました。

食べることが大好きな私は、自宅で自分の好きな料理を作って家族に食べてもらうことが喜びでした。毎日の食卓は家族と一緒に過ごす幸せな時間…だったのですが、最近ではそうも言えなくなってしまいました。
私の喉に異変が起きたからです。初めて喉に違和感を感じたときは、一時的なものかと思ってしばらく様子を見ていました。しかし、食事中に決まって喉の詰まり感とヒリヒリ感が生じるようになりました。
食べ物を飲み込むだけで喉の違和感が気になるため、食事が苦痛の時間に変わってしまったのです。

病院を受診すると医師からは逆流性食道炎と診断されました。幸い処方された薬が効いて症状は落ち着いてきたものの、完治するにはもう少し時間がかかるとのこと。家族と一緒に楽しく食事ができるのはいつになることやら……。
逆流性食道炎の治療はこんなに長引くものなのでしょうか? それとも私が回復を妨げるようなことをしてしまっている? 喉のことを考えると不安でたまりません。
逆流性食道炎の症状を少しでも早く改善するために、日常生活で注意すべきこと、やってはいけないことなどはありますか?

ご質問ありがとうございます。

逆流性食道炎の中には治りにくいケースもあります。また再発しやすいため、根気よく治療を継続することが大切です。

今回は、治りにくい”難治性”の問題や、日常生活でやってはいけないこと、効果的な漢方薬などについて、詳しくお伝えしていきましょう。

逆流性食道炎の治療の進め方と治療期間

逆流性食道炎は特に中高年の女性に多く発症し、口の中に酸っぱいものや苦いものが込み上げてきて、胸焼け症状が現れます。

逆流性食道炎に対する治療においては、胃酸が食道内に停滞することをできる限り予防することが重要になります。

薬物療法では酸分泌抑制剤を使用し、中でもプロトンポンプ阻害剤と呼ばれる薬剤による服薬治療によって症状の軽減が見込まれます。

ただし、これらの薬物治療を施行しても、障害された胃液の逆流防止機構自体は完治するわけではありませんので、根気よく長期に渡って治療を継続する必要があります。

基本的には、約2か月間が投薬治療期間といわれています。ただし、逆流症状自体はかなりの高確率で再発するため、薬物治療を継続するケースもあります。

個々の症状に応じて、食道粘膜を保護する制酸薬、あるいは食べ物の消化を促進させる消化管運動改善薬を組み合わせます。

治療開始の遅れによって病状が進行し、食道狭窄を呈する場合には、内視鏡治療や根治的な手術療法を選択することもあります。

治りにくい”難治性”の可能性も?考えられる原因とは

逆流性食道炎と診断されて、プロトンポンプ阻害剤などの薬物治療が行われても、なかなか症状が改善せずに「難治性」を認めるケースもあります。

食道の粘膜傷害と自覚症状は必ずしも相関しませんが、治療を行っているのに治癒しない場合、胃酸が長い時間に渡って食道部分に停滞していることが想定されます。

難治性となる要因

難治性となる要因としては、例えば次のものがあります。

・日常的に脊椎が湾曲している
・食道裂孔ヘルニアがあるために胃が胸腔内に引っ張り上げられやすい状態である
・暴飲暴食など食生活習慣に問題がある

このような場合には、薬剤自体の変更、あるいは薬物の服用方法に関して工夫を講じる必要があります。専門医やかかりつけ医とよく相談して、根気よく治療を継続しましょう。

逆流性食道炎の予防・改善のためにやってはいけないこと

逆流性食道炎を予防するために、やってはいけないことを確認しておきましょう。

これらを日常的に行っていると、逆流性食道炎を発症したり、治癒が遅くなったり、再発したりといったリスクが高くなってしまいます。

食べ過ぎ

日常的に暴飲暴食を控えて、早食いや大食いなど、必要以上に食べ過ぎないように注意を払う必要があります。特に、胃液の逆流を起こしやすい「食べ過ぎ」の生活習慣を回避することが重要です。

早食いは食事の際に空気成分も一緒に飲み込むことで胃が膨らんで、噯気(げっぷ)症状が出現しやすくなり胃酸の逆流症状を助長します。また、食べ過ぎによって肥満傾向になることでも逆流性食道炎のリスクが高くなります。

肥満体においては内臓脂肪が胃を圧迫して胃酸逆流が起きやすく、肥満が改善されないと症状が慢性化していつ再発してもおかしくない状態となります。

このように、胃酸逆流の大きな原因となる食べ過ぎには十分注意して、常日頃から食事の際には腹八分目を心がけるようにしましょう。

食後すぐに横になる

逆流性食道炎は一般的に食道と胃の接合部の逆流防止に関する機能低下、あるいは腹圧上昇が病状を悪化させる要因であることが知られています。

食後はもっとも胃酸逆流がおこる時間帯です。食べてすぐに横になってしまうと、胃酸が重力の影響で食道から胃に流れないことで長時間逆流し、食道粘膜部に滞留することで逆流性食道炎が発生しやすくなります。

例えば、脂っこいものを食べた直後に体を横たえると胸やけなどの症状が悪化すると指摘されています。食後すぐに横になるのは避けましょう。

高脂質の食事、刺激の強い食事

胃酸を多く分泌する食べ物をできるだけ避けることが逆流性食道炎の予防につながります。チョコレートなどの高脂質の食事は胃もたれを助長しますので注意しましょう。

また、唐辛子など刺激の強い香辛料、コーヒーなど消化管粘膜を刺激する飲み物も胸やけ症状を引き起こしやすいため、できるだけ控えるようにしましょう。

ほかにも、甘味食、柑橘系メニュー、酸味が強い食べ物、などを避けることも症状の軽減に役立ちます。

喫煙

喫煙は胃食道逆流症のみならず食道がんの発症リスクまでも上昇させると懸念されています。

これまでの研究でも、胃食道逆流症を抱える患者さんにおいては、喫煙が食道における運動機能を低下させて逆流症状を悪化させることが分かっています。

喫煙は胃と食道の境目に位置する括約筋の働きを低下させます。禁煙は逆流性食道炎の予防に効果的です。

飲酒

アルコールを多量に摂取すると、食道と胃の境目にある下部食道括約筋を弛緩させて胃酸が逆流しやすくなります。

特に胃を膨らませる炭酸ガスを含むビール、シャンパーニュ、サワー系のお酒、あるいは白ワインなど酸っぱいお酒は胃の内圧を高めて逆流が起こりやすくなります。これにより胸焼け、吐き気、喉の違和感、胸の痛みなどさまざまな症状が生じます。

過剰な飲酒は控えるようにしましょう。

腹圧を高める服装や姿勢

腹部を圧迫する姿勢は胃食道逆流を引き起こしやすくします。

前かがみ姿勢や、高齢者女性によく認められる脊柱後弯症などの姿勢は腹部全体を慢性的に圧迫します。

普段から前屈位の姿勢を長時間保持し続けていないか注意し、重い荷物を持ち上げるなど腹圧がかかりやすい動作を回避することは逆流性食道炎に伴う症状の軽減につながります。

根本的な体質改善には漢方薬が効果的!

体質を改善し、症状の軽減を目指すために漢方薬の服用もオススメです。実際、いくつかの漢方薬は逆流性食道炎の治療のために医療機関で処方されています。

逆流性食道炎には、体の血流を改善することで、食道を逆流から守る機能低下を回復したり、胃の防衛因子である胃粘膜の働きを改善する漢方薬から選びます。

また、自律神経(気)を整えることで、胃酸の過剰分泌の原因となるストレスを軽減する漢方薬からも選ばれます。

半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は気の流れを良くすると同時に胃腸の流れも良好にするという発想から生まれた薬剤です。中でも、喉に何か引っかかって取れない感じを訴えている場合、のどに異物がへばりついたような違和感がある場合に良い適応となり、咳やしわがれ声などの症状を改善する効果も期待できます。

六君子湯(リックンシトウ)は気を補う作用が非常に強いのが特徴で、気の不足状態(気虚)を背景に普段から気がぜい弱で胃腸の流れが悪くなっているタイプの方に向いています。胃の内容物を腸へ送り出す効果も認められ、みぞおちのつかえ感などの症状改善効果が期待されており、特にやせ型の男性に効果的であるという報告があります。

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治療を進めながら、生活習慣の改善に努めましょう

今回は、逆流性食道炎が治らない場合に考えられる原因や、日常的にやってはいけないこと、効果的な漢方薬について紹介しました。

逆流性食道炎の治療の基本は薬物治療となっています。普段の生活習慣と深い関わりを持つ病気ですので、特に食生活や、適切でない姿勢を改善していくことが重要になります。

逆流性食道炎による不調が気になる場合は、専門医療機関を受診し、消化器内科などの担当医とよく相談するようにしましょう。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

TOTO関西支社健康管理室  室長(産業医) 甲斐沼孟 医師 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月より現職。 消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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