普通の肺炎との違いは?間質性肺炎の治療法と日常生活の注意点

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間質性肺炎という病気があります。肺炎ですから、肺に炎症が起こる病気です。しかし、一般的に起こる細菌やウイルスなどの感染症による肺炎とは臨床像も治療法も異なります。

ここでは間質性肺炎の特徴をお伝えするとともに、実際にどのような治療を行うかや、ステロイドを使う理由について解説します。

間質性肺炎と肺炎の違い

一般的な肺炎では肺胞の中に炎症が起こりますが、間質性肺炎では間質という部分に炎症が起こります。では、間質や肺胞とは一体どのようなものなのでしょうか。

肺胞と間質

肺は、口や鼻から吸い込んだ空気から酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する臓器です。肺は無数の肺胞という構造が集まってできています。肺胞は風船のような構造をしており、風船の吹き口となる気管支から空気が入ってきて、風船の内部となる肺胞の中に空気がたまります。

風船でいえば風船の壁である部分を肺胞壁といいます。そして肺胞と肺胞は互いに間質という組織を挟んで接しています。間質の中には毛細血管が通っています。また、毛細血管の周りには弾性線維という線維をはじめとして、肺胞の構造を維持するためのクッション材のようなものが占めています。

肺胞の壁も間質も、間質の中にある毛細血管の壁も、いずれも酸素や二酸化炭素を通過させます。ですから、肺胞の中に新鮮な空気が入ってくると、肺胞壁、間質、毛細血管壁を通して酸素が血管の中に取り込まれ、一方で血液中の二酸化炭素が空気中に排出されるのです。

間質性肺炎の特徴

一般的な肺炎は、気管支から微生物などが侵入してくることにより発症します。微生物を排除しようと免疫を担当する細胞などが肺胞の中に出動し、肺胞の中で炎症を起こします。

しかし間質性肺炎は、間質に起こる炎症です。微生物の侵入や、その他の異物の侵入とはあまり関係なく起こります。

間質性肺炎には複数の種類がありますが、原因がはっきりせず発症するものに特発性間質性肺炎という肺炎があります。原因がはっきりしないものには他にも非特異性間質性肺炎や特発性器質化肺炎など、さまざまな種類がありますが、最も多いのが特発性間質性肺炎です。

その他には、薬剤の副作用で起こる薬剤性間質性肺炎、放射線を過剰に浴びることによって起こる放射線肺臓炎、吸入粉塵によるじん肺、膠原病による間質性肺炎などがあります。

いずれも、間質に炎症が起こることでさまざまな影響が出ます。間質に炎症が起こると、弾性線維が破壊され、弾力が無くなってきます。また、その代わりに組織を修復しようと線維芽細胞という細胞が増殖し、固い繭のような状態になってきます。このように、間質性肺炎で線維芽細胞が増殖し、固くなってくることを線維化と言います。

間質性肺炎の症状

間質は酸素や二酸化炭素の通り道でした。そこに炎症が起こるわけですから、酸素の取り込みがなかなかできなくなってしまい、低酸素血症を起こし、息苦しさを感じます。二酸化炭素は酸素に比べて肺胞壁での通過性が非常に高いので、間質性肺炎でもあまり変化は出ません。

肺に炎症が起こっていますから、咳が起こるよう刺激が続けられ、咳が出ます。しかし、肺胞の中に分泌物が増えているわけではありませんから、痰があまりない乾いた咳が出ます。

肺活量の検査では、弾性線維が炎症によって固くなってしまって線維化することで、肺が広がりにくくなっていることを反映して肺活量の低下を認めます。

画像検査では、肺のより末梢の方に、蜂の巣のように白い網目状の像が映り、蜂巣肺と呼ばれる像を呈します。

間質性肺炎の治療法

間質性肺炎は徐々に発症してくる慢性間質性肺炎と、急激に症状が出現して状態が悪くなる急性間質性肺炎があります。それぞれに分けて治療法を考える必要があります。

経過観察

特発性間質性肺炎など、慢性的に症状が悪化してくる間質性肺炎の場合は、病勢が急激に悪化しているのでなければ特に治療を行わず、経過を見ることが多いです。劇的に効果があり、なおかつ副作用が少ない治療というものは無く、また生活に気をつけていれば急激に症状が悪くなることはあまりないからです。

もちろん、症状が急激に悪くならないように日常生活で気をつける必要がありますが、状態が非常に悪くならない限り、ある程度の日常生活は続けられます。

薬剤性や放射線性など原因が分かっている間質性肺炎の場合は原因への暴露を避けることが必要になります。

薬物療法

薬物療法では炎症を抑える抗炎症薬や、線維化を抑える抗線維化薬が使用されます。しかしいずれも線維化してしまった肺を元に戻すのではなく、炎症が起こって線維化が起こっていくのを抑制し、病状がこれ以上進行しないようにする治療です。線維化のスピードが早い場合に使用されます。

ステロイド・免疫抑制剤

膠原病性間質性肺炎は、自分自身の免疫の異常によって引き起こされます。そのため、自分自身の免疫を抑えることで病状の進行を抑えようと、免疫抑制薬やステロイド薬が使用されます。

その他の間質性肺炎でも、炎症を抑えるためにステロイド薬の投与が行われます。特に重症化した場合や、急激に増悪している場合は高用量のステロイド薬を使用するパルス療法が行われる場合もありますが、効果は限定的です。

肺炎の治療でステロイドを使うのはなぜ?

前述のように一部の肺炎に対する治療としてステロイドが使用されます。ステロイドの働きや使う理由について確認しておきましょう。

ステロイドの働き

ステロイド薬は、体の中でも作られる副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールと同じような作用をします。コルチゾールは、体の中では、両方の腎臓の上にある副腎というところから分泌されるホルモンです。

ステロイドの作用には、一番大きな作用として、炎症を抑える作用があります。炎症を促す物質の産生を抑えることによって、体の中での炎症反応を最小限に食い止める作用があります。

他にも、炎症反応を引き起こす細胞の増殖を抑える作用や、炎症が起こっている部分の血管を収縮させることによって、炎症を起こりにくくし、すでに炎症が起こっている部分の炎症反応がそれ以上広がらないようにする作用が期待できます。

また、抗体の産生を抑制することによって、免疫反応自体を抑制することもできます。 

ステロイドを使う理由

間質性肺炎は、肺胞と肺胞の間の間質で、何らかの原因によって炎症が起こってくる病気です。この時、体の外から侵入してくる微生物によって起こってくることはあまりなく、ほとんどの場合は自分自身の免疫によって起こってくる反応になります。

自分自身の免疫が異常になることによって炎症が起こってくる病気ですから、免疫を抑えつつ、炎症も抑えていく必要があるのです。

 様々な薬剤がありますが、免疫も抑えつつ炎症も抑えるような薬はステロイドしかありません。間質性肺炎の治療としては、免疫抑制薬も使用されるのですが、どうしても作用が出てくるまでに若干の時間がかかってしまいます。

すでに炎症が起こっている場合、その炎症を抑えないと症状がなかなか収まらないことも多くあります。そのため今現在炎症が起こっているような状態であれば、ステロイドを使用することで、かなり早く効果を得ることができます。

ただし、突発性間質性肺炎の場合、ステロイドを多く利用しても10~20%程度しか効果がないとされています。そのため、まずはステロイドを使用して、それでも効果がない場合に免疫抑制薬を使用するといった治療がなされます。

ステロイドの副作用 

有効に使えば非常に便利なステロイドですが、副作用も多くあるのが欠点です。

まずは免疫を抑制するという効果が発揮されるということは、感染症にかかりやすくなる可能性があるということです。ステロイドを使用している人は特に風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすいと考えて、手洗いやうがいをしっかりするほか、人混みには行かないなどの対策が必要になります。

ステロイドを長期間使用すると、血糖値の上昇をきたし、糖尿病を発症してしまうこともあります。その他には消化管粘膜が弱くなるため、胃潰瘍ができて出血をしてしまうこともあります。その対処法として胃薬を併用する場合も多くあります。

他には出血を止める働きをする血小板の機能が亢進し、血栓症ができてしまうこともあります。対策として血をサラサラにする薬を内服することもあります。

また、ステロイド精神病と呼ばれる精神症状をきたすことがあります。不眠症やうつ状態になることがありますので、異変がある場合にはすぐに治療する必要があります。

他には中心性の肥満、動脈硬化、 高脂血症、高血圧症、白内障、ニキビ、大腿骨頭壊死などが起こってくることがあります。 

ただし、これらの副作用は用法用量を適切に守っている場合、発生を最小限にすることが可能です。自己判断で減量したりせずに主治医と相談して、適切な分量を使用することが大切です。

日常生活の注意点

このように、間質性肺炎は原因がはっきりしている場合は原因の除去と、原因に対する治療を行いますが、それ以外の場合は病状の進行を遅らせる以外の有効な手立てがありません。

線維化や炎症を抑える薬も効果は限定的ですから、症状を増悪させるような日常生活を取らないことが重要になります。

禁煙する

間質性肺炎で最も重要なことは禁煙です。元々肺に炎症が起こっているところに喫煙をすることで、炎症がさらに増悪してしまいます。また、喫煙によって肺胞内や気管支内に分泌物が増加しますから、酸素の取り込みが悪くなります。

元々間質性肺炎で酸素の取り込みが悪くなっているところですから、体の中への酸素の取り込みが非常に悪くなり、息苦しいという自覚症状だけではなく、内臓機能などの低下をもたらします。

また喫煙を続けると肺胞壁自体の破壊も進み、肺気腫という病気になってしまいます。この病気では、肺胞壁が破壊されることで酸素の取り込みが一層悪くなるだけではありません。元々間質性肺炎で線維化し、肺が広がりにくくなっているところに、肺胞壁が破壊されて弾性線維が不足してしまい肺がしぼむことが難しくなってしまいます。そのため、肺が広がることもしぼむこともできないという、呼吸にとって非常に不都合な状態になってしまうのです。

また、喫煙は免疫バランスを悪くしますから、単に炎症を起こすだけではなく、間質性肺炎自体の病態を悪化させる場合もあります。禁煙は非常に重要です。

バランスの良い食事

体の免疫は、規則正しい生活とバランスの良い食事によって保たれています。食事のバランスが崩れると免疫が正常に働かなくなり、炎症の状態が悪化する場合があります。

必要な栄養素を必要な分摂取することは、間質性肺炎の増悪を防ぐためにも必要です。

風邪をひかないようにする

間質性肺炎も軽度であれば日常生活を問題無く送ることができます。しかし、日常生活を送ることができるといっても予備能力が低い状態といえます。例えば、健康的な人に比べて長く走ることができなかったり、動きすぎると息苦しくなったりといった症状を感じることが多くなります。

風邪を引くと体は風邪を治そうとさまざまな場所で酸素の必要量が増加します。しかし、間質性肺炎によって酸素の取り込みが低下しているとそれだけ必要な分の酸素が取り込めない状態になってしまい、全身の状態が一気に悪化することがあります。

また、風邪を引くこと自体が間質性肺炎の病勢を進行させることもあります。

普段から風邪を引かないように気をつけることが大切です。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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