腹水のお腹の出方はどんな感じ?原因になる病気と治療法について

腹水はおなかの中に水などの液体成分が貯留した状態を指しています。
通常では、腹水は腹膜などで産生された後、腹膜や血管で吸収されてバランスを取っています。腸管などの臓器がスムーズに働いて蠕動するために約50ml程度の腹水が存在しているといわれています。
この腹水成分が肉眼的に明確に外部からでも指摘できるようであれば、腹水貯留の状態と考えられます。ここでは腹水の原因や治療法について解説します。
腹水のお腹の出方の特徴

腹水とは、内臓の外側にある腹膜で覆われた腹腔内スペースに、多量の液体成分が溜まっている状態であり、外見的にお腹がポコっと突出しているように見受けられます。
個人差はありますが、腹腔内部の解剖学的な位置が横隔膜下から骨盤周囲までに至るため、妊婦さんのように腹部が突出して見える場合もあります。
腹水は少量であればほとんど自覚症状はありませんが、大量に貯留すると腹部全体が膨らんで蛙腹になり、それに伴っておへそ(臍部)が飛び出てくることもあります。
したがって、異常に腹部だけが突出している、あるいは下半身や足部分が浮腫を起こしている場合には、単純な肥満体形というだけではなく腹水貯留を疑う必要があります。
腹水に伴う体の症状
腹水貯留に伴って腹部全体が液体成分によって圧迫を受けるため、腹部に不快感や違和感を自覚する、あるいは胃全体が圧迫されて嘔気や食欲不振症状に繋がることも考えられます。
また、腹部臓器のみならず肺など胸部に存在する臓器も同時に圧迫されると、肺との境界にある横隔膜を腹水成分が押し上げることで肺が膨らみにくくなって息切れを引き起こします。
そして、大量の腹水が貯留することによって静脈血管が圧迫されて心臓に還流する血液循環が悪化し、下半身や足部分において強い浮腫み症状を呈する恐れがあります。
腹水の原因になる病気

腹水の原因になる代表的な病気には次のものがあります。
がん性腹膜炎など
がん性腹膜炎とは、胃がん、大腸がん、卵巣がんなどを基礎として腹膜組織にがん細胞が転移した状態です。
腹膜に覆われている腹腔内にがん細胞が飛散することで大量の腹水が貯留して、腸閉塞や尿管閉塞などの合併症を引き起こします。
これらのがん性腹膜炎に関しては、発症初期段階で正確に診断することは現実的には困難であり、手術を実施した際や腹部膨満などの症状が出現してからはじめて診断されることが多くなります。
すでに原疾患として存在しているがん病巣部からの転移によって引き起こされるがん性腹膜炎は、がんがかなり進行している状態といえます。
肝硬変・腎不全・心不全など
肝硬変を罹患することによって、血液中のたんぱく質であるアルブミンを合成する機能が低下します。
アルブミンという蛋白成分は血液中の水分を一定量に保つ、あるいは水分を血管内に引き込むことで体内の水分調整を担っています。
肝硬変によってアルブミンの合成能が低下して身体の中で不足すると、腹水成分を血管内に吸収することができなくなり、血管内の水分が血管外に漏出して腹水として貯留されていきます。
また、肝臓内にはさまざまな腹部臓器を還流してきた血液を肝臓に運搬する「門脈」という重要な静脈血管が存在します。
肝硬変に伴ってこの門脈における血管内圧が亢進して高くなると腹水が貯留することが知られています。
肝硬変以外にも、心不全や腎不全などの病気を罹患することで、血管内腔から血液成分や蛋白成分、水分が外部に漏出しやすくなることで、腹水が多量に溜まりやすくなると考えられています。
腹水の診断
腹水が大量に貯留している際には、身体診察の所見に基づいて腹部を診察するだけで簡単に診断がつきますが、そうでない場合には超音波検査やCT検査などの画像検査を実施して診断に繋げます。
身体所見による診断が難しい場合には、超音波検査またはCT検査を始めとする画像検査の方がより診断感度が高く、身体診察に比べてより少量の液体(約100~200mL)でも検出することができます。
また、腹水の原因を適切に診断するために腹部に針を刺して腹水を抜く検査方法があります。この検査によって、腹水の内容物が滲出液か漏出液かを調べ、腹水成分の色調をチェックすると共に、腹水中に血液、細菌、癌細胞が存在するかどうかを評価することが可能です。
実際に腹水穿刺を行う際には、およそ50~100mLの腹水を採取して、その肉眼所見を観察して、腹水中に含まれるタンパク質濃度、細胞数および白血球分画を調べる、あるいは腹水を培養して詳細な分析を行うことも想定されます。
腹水の治療

腹水が貯留している原因や背景によって治療対応が異なりますが、基本的には腹水貯留状態では安静、塩分制限、利尿剤の服用が治療手段として挙げられます。
腹水が貯留している場合は入院中だけでなく、自宅でも安静を保持して塩分制限した食生活を継続する必要があります。
塩分制限は利尿剤の効果が効きにくくなってしまうのを防ぐために実践します。
一般的には、1日あたりの塩分摂取量を10gまでが目標になりますが、腹水が溜まっている場合には8g以下に制限することが重要になります。普段から低塩の調味料を使用し、みそ汁やラーメンなど塩分を多く含む汁を飲み干さないようにするなどして塩分摂取量を調節します。
腹水貯留の原因として肝硬変が考えられる場合には、安静にすることで肝臓に血液が入り込みやすくします。また、余分な水分を尿として体外へ排出しやすくするために利尿剤が処方されるケースもあります。
常日頃からの厳格な塩分制限で数日内に利尿が得られずに腹水貯留が改善しない場合には、スピロノラクトンⓇを始めとする利尿薬を併用して経過観察することが推奨されています。
さらに、スピロノラクトンⓇでも不十分な際には、フロセミド(ループ利尿薬の一種)の処方を追加して薬効を見極めることが重要です。
腹部圧迫感などを伴う場合
腹水による腹部圧迫感など症状が顕著な場合は、臨時的な緊急対応として針を腹部に穿刺して腹水成分を抜く治療行為を実施することもあります。
腹水の内部には身体にとって必要なたんぱく質を含む重要な栄養素も多く含まれているために、ドレナージして抜いた腹水成分をろ過して、点滴で血管を介して体内に戻す濾過治療を行います。
採血検査などを行って、アルブミン値が明らかに低下を示す場合には、アルブミンの点滴も併用して実践されることがあります。
まとめ
これまで腹水のお腹の出方、腹水の原因になる病気と治療法などを中心に解説してきました。
腹水貯留とは、腹腔内に大量の液体成分が溜まった状態を意味しています。腹水が溜まる最も一般的な原因としては、肝硬変に伴う門脈圧亢進症、心不全、腎不全などが挙げられます。
腹水が貯留することによって、腹部膨満、腹部圧迫感、食思不振、下半身浮腫などの症状が認められることがあります。
腹水貯留に関する診断は身体診察以外にも、しばしば超音波検査やCT検査など画像検査を実施して行われることがあります。
腹水が貯留したケースに対する治療策は、日々の塩分制限、利尿薬服用、腹水穿刺などです。
腹部症状があって心配な方や腹部が膨満して気になる方は消化器内科など医療機関を受診することをおすすめします。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。
<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」