糖尿病と膵臓の関係とは?膵性糖尿病や膵臓がんについて解説

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糖尿病と膵臓の役割や機能は大きく関連しています。

膵臓は膵液と呼ばれる消化液を分泌する以外にも、生体にとって重要なインスリンというホルモン物質を分泌し、普段から血糖値の調節に貢献しています。

糖尿病を罹患している、肥満である、大量飲酒をしている、長期的に喫煙している、膵臓がんの家族歴を有するなどの場合には、膵臓がんを発症する危険度が上がります。

膵臓がんが認められると、インスリンの働きが通常よりも障害されて低下し、血糖値が急に上昇することがあります。

ここでは糖尿病と膵臓の機能の関係や、膵臓がんのリスクなどについて解説します。

糖尿病と膵臓の機能

糖尿病はインスリンが十分に機能しないために、血液中を流れるブドウ糖の成分が上手く処理できずに血糖値が増加する病気です。

膵臓の重要な役割のひとつはインスリンを分泌することです。インスリンによって糖成分を細胞内へとスムーズに移動させて、生体内でエネルギーとして活用すると共に、血中の糖濃度を常日頃から制御しています。

1型糖尿病では、インスリンの分泌低下が主な病態であり、膵臓の機能低下により、十分なインスリンを分泌できずに糖成分が血液中にあふれてしまう状態に陥ってしまいます。

2型糖尿病ではインスリン抵抗性が指摘されています。これはインスリン自体は十分量が分泌されているが、運動不足や食べ過ぎに伴う肥満などによってその効果を発揮できない状態です。

膵性糖尿病とは

急性膵炎、慢性膵炎、膵癌、粘液産生腫瘍、先天性膵形成不全などの膵臓疾患に伴って、インスリン分泌能が相対的に低下して、糖尿病を発症する状態を「膵性糖尿病」と呼称しています。

膵性糖尿病では、1型糖尿病の典型的な症状である口渇、多飲、多尿などが現れます。膵性糖尿病の方は一般的に痩せ型の体形を呈している場合が多いのが特徴的で、膵外分泌機能不全のために吸収不良症候群や慢性的な下痢症状を呈することもあります。

膵性糖尿病の治療

膵性糖尿病に対する主な治療策は、基本的に1型糖尿病に準じてインスリン療法が適応となります。

軽症の場合には、経口血糖降下薬が有効的に働くこともありますが、膵性糖尿病ではインスリン依存状態に陥る可能性が高いと指摘されていますので、一定の注意を払う必要があります。

また、病状が進行するとインスリン分泌のみならず、グルカゴンの分泌量も低下するために容易に低血糖に陥りやすく、糖成分を補充するためにブドウ糖を常に携帯しておく必要があります。

さらに膵臓から分泌される消化酵素が不足して、吸収不良の兆候を併発している場合には、パンクレリパーゼを始めとする消化酵素の補充が必要になるケースもあります。

慢性膵炎と糖尿病

慢性膵炎を罹患している場合に糖尿病が発症することが指摘されており、過去の調査では慢性膵炎の患者例のなかで約40%前後の方が糖尿病を合併していると伝えられています。

慢性膵炎では膵外分泌組織の萎縮や間質組織の線維化などに伴って膵外分泌機能の低下が直接的に引き起こされるとともに、血流障害によって膵ランゲルハンス島も障害され、インスリン分泌不全の状態を引き起こすと考えられています。

慢性膵炎の原因としては、アルコール性、特発性、胆石性の順番で多く、アルコールに伴う慢性膵炎は糖尿病を発症させるリスク因子であることが認識されています。

また、膵臓に石灰化病変を伴う慢性膵炎では概ね80%と高率な頻度で膵性糖尿病を発症することが知られています。

膵臓がんと糖尿病

膵臓がんも高率に糖尿病を発症することが知られています。

近年においては、糖尿病と癌疾患の合併に関して注目されており、特に膵臓がんは糖尿病患者では糖尿病ではない場合のおよそ2倍の発症率となることが示されています。

膵臓がんによって膵ランゲルハンス島が破壊されて膵管閉鎖に伴う膵炎を合併するだけでなく、インスリン抵抗性そのものを惹起して糖尿病に罹患することが指摘されています。

平常時よりも高いインスリン濃度が認められること、あるいは高血糖状態や2型糖尿病による長期の炎症などいくつかのメカニズムが関連して、長期にわたり糖尿病を罹患した場合には、膵臓がんの発症リスクを高めると指摘されています。

膵臓がんの危険因子には、大量飲酒歴、喫煙習慣、慢性膵炎、肥満体形、膵臓がんに関連する家族歴、特定の遺伝子変化を伴う症候群などが挙げられています。特に糖尿病患者では、膵臓がんの発症リスクが通常の場合と比較して増加することが知られています。

そのため糖尿病と新たに診断されると同時に、膵臓がんがあわせて指摘されるケースも少なくありません。

肥満などインスリン抵抗性の状態においては、膵臓のインスリン産生細胞はインスリン抵抗性を改善するためにより多量のインスリンを産生する一方、膵臓がんではインスリン産生細胞がインスリン抵抗性に適切に反応するのを妨害する反応を示すと考えられています。

まとめ

糖尿病は様々な膵疾患の存在を疑わせる重要なサインともなります。初めて糖尿病と診断された場合、あるいは糖尿病の症状が突然悪化傾向を示した際には、その背後に慢性膵炎や膵臓がんが隠れている可能性もあります。医療機関を受診して相談することをおすすめします。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

TOTO関西支社健康管理室  室長(産業医) 甲斐沼孟 医師 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月より現職。 消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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