食べてるのに痩せるのはなぜ?意図しない体重減少に注意

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ダイエットをしているわけでもないのに体重が減少してしまうことがあります。体重減少の原因に心当たりがある場合はよいのですが、原因がよくわからない、意図していない体重減少には注意が必要です。ここでは食べてるのに痩せる原因について解説します。

食べてるのに痩せる原因

食べてるのに痩せてしまう原因になる疾患について見てみましょう。

甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが通常よりも分泌され過ぎることによってさまざまな症状を呈する病気です。

代表的な症状としては、甲状腺が腫大する、頻脈になって脈が速くなる、手の指が震える、汗を大量にかきやすくなる、たくさん食事を摂取するのに痩せる、普段からイライラしやすく疲れやすい、眼球が突び出したようになるなどが挙げられます。

多くの場合には、甲状腺は腫れますが、その腫れの程度と病勢や症状の重症度は必ずしも一致するわけではありません。

甲状腺機能亢進症では若年者においてさまざまな症状が出現しやすく、中年以降になると症状が顕著に現れることは稀になっていきます。

糖尿病

糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの量や作用が低下し、血糖値が慢性的に高い状態に陥る生活習慣病の一種であり、肥満や老化、遺伝が発症に関係しています。

口の渇き、尿回数の増加など糖尿病に関連する典型的な症状以外にも、本疾患のひとつの症状として体重が減少することが見受けられます。

糖尿病を発症することによってインスリンというホルモンの機能が低下して、食事から摂取したブドウ糖をエネルギーとして利用できなくなり、体内の脂肪や筋肉のタンパク質をエネルギー源として分解して消費する為に体重が低下します。

また、糖尿病においては糖の消化や吸収はできるものの、血糖成分を組織内に取り込むためのホルモンであるインスリンがうまく作用せずに、尿から糖分が排出することによっても摂取エネルギーの喪失につながると考えられます。

ひどい場合には、糖尿病患者さんにおいて1か月で10kg以上痩せて体重が減少する人もいます。

糖尿病患者さんには肥満体形であるというイメージがあり、肥満の人は糖尿病になりやすいとも考えられますが、一方で糖尿病が進行した人では体内において慢性的なエネルギー不足となる結果、体重が減少することになります。

吸収不良症候群

吸収不良症候群は、全般的に食べ物を消化する、あるいは吸収する働きが低下することで、食物中の栄養素を健常レベルに取り込めずに引き起こされる病気の総称です。

栄養素を吸収する役割は主に小腸が担っているため、吸収不良が認められるのは小腸粘膜に異常を生じた場合がほとんどですが、時に消化能力が低下する場合も吸収不良に関連する症状が出現します。

食べ物の消化は原則として胃と小腸で行われますが、消化には膵臓や肝臓、胆嚢などから分泌される消化液の補助が必要であり、分泌された消化液は十二指腸で食べ物と混ざることが知られています。

したがって、吸収不良症候群は、消化や吸収に関連している胃や十二指腸、小腸、膵臓、肝臓、胆道などさまざまな臓器に何かしらかの病気が生じる、あるいは原病変によって各種臓器を切除することで食べ物の消化や吸収が十分に行われないことによって引き起こされます。

吸収不良症候群では、身体に必要な栄養素や水分を正常に吸収できないために、栄養が不足して体重が減少するだけでなく、慢性的に下痢、貧血、口内炎などの症状を引き起こします。

さらに、脂肪成分を上手く吸収できないことで脂肪分を多く含んだ脂肪便が排出されることもあります。

通常の便の場合には、便器の水中に沈みますが、脂肪便のケースでは便器の中に便内容物が浮遊することが知られています。

悪性腫瘍

胃や大腸など消化器関連の臓器に悪性腫瘍が発症して進行すると、がん細胞に多くの栄養分が奪われるのみならず、正常な消化吸収機能が果たせなくなって、腹痛や食欲不振以外にも体重減少を認めることもあります。

無秩序に増殖するがん細胞はエネルギーをたくさん消費する結果、悪性腫瘍を有する人でも体重が減少することも見受けられます。

悪性腫瘍の初期の段階においては、有意な症状を認めないこともあるため、早期的にがん病変を発見して速やかな治療に繋げるためにも健康診断などを活用して定期的に精密検査を受けることが重要なポイントです。

万が一、原因不明の体重減少が出現した場合には、がんや悪性腫瘍の発症や存在を念頭において、できるだけ早期に専門医療機関を受診しましょう。

意図しない体重減少に注意

誰でも時間経過とともに体重がある程度の範囲で増減するため、一般的には4kgから5㎏を超過する体重減少、あるいは小柄な体形の方では、体重の5%を超える体重減少を認める場合には、医師は心配や懸念を抱くことになります。

医療従事者がそのような大幅な体重減少の所見を見た際には、深刻な身体疾患や精神障害の存在を疑うサインになります。

基本的にダイエットなどを実践して意図的に体重を減少した場合ではなく、1年間で10%以上、あるいは半年間で5%以上の体重減少を認める際には、何らかの重大な疾患が隠れている可能性も危惧されるため、適切な評価が重要です。

高齢者の体重減少に伴うリスクとは

若年者であっても糖尿病や甲状腺機能亢進症(バセドウ病等)などの病気に伴って体重減少が認められるケースはありますが、特に体重減少自体が大きな問題になるのは高齢者です。

高齢者の体重減少を見た際には低栄養状態が隠れている可能性が高く、フレイルやロコモティブシンドロームを引き起こして要介護状態に陥りやすくなります。

また、若い人であっても糖尿病や甲状腺機能亢進症のような病気に加えて、こころの問題(うつ病や摂食障害など)による体重減少に注意が必要です。

高齢者の約3割は低栄養状態であり体重が減少傾向であるとの報告もあり、栄養状態が悪くなることで、さまざまな心身の弊害が生じるため、高齢者においてもできる限り栄養状態を普段から良好に保つことが大切です。

特に75歳以上の後期高齢者の場合には、低栄養状態に陥りやすく生活を送るうえでの活気が失われて、負の連鎖のように悪循環に陥ってしまい、介護度が上がって寝たきりの要因になることも考えられます。

寝たきりへの負のスパイラルは低栄養に伴う体重減少から始まって、フレイルと呼ばれる虚弱状態へと進行悪化して全身のあらゆる機能が低下して、身の回りのことを独力で実施することが徐々に困難になっていく懸念があります。

さらには、サルコペニアと呼ばれる筋肉量が全般的に低下した状態に陥って、ロコモティブシンドロームと呼ばれる骨や関節の障害によって、歩行や日常生活に重大な支障をきたした状態へと進展することが心配されています。

まとめ

これまで、食べてるのに痩せるのはなぜか、意図しない体重減少に注意する理由などを中心に解説してきました。

いわゆる体重減少とは、意図的にダイエットなどで体重コントロールをしていないにもかかわらず、6~12か月で体重が4kg~5kg、あるいは5%以上減少したケースを指します。

体重はエネルギーやカロリーの摂取、あるいは消費のバランスを反映する重要かつ簡便な指標であり、体重が減少するということは、日常的に摂取エネルギーが低下したか、または消費するエネルギーが増加したか、もしくはその両方が認められる可能性が高いです。

嚥下障害や胃腸疾患、悪性腫瘍などを始めとするさまざまな病気にかかりやすい高齢者においては、たかが体重減少と考えずに身体からのSOSのサインだと捉えて出来るだけ早くに対策を講じることが大切です。

体重が減少するきっかけとなる要因や病期は数多く存在しますので、意図せずに体重減少が認められた際には、重大な疾患が隠れている可能性が考えられて、健康的に問題のある状態を否定する必要がありますので、内科など医療機関を受診するように心がけましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

TOTO関西支社健康管理室  室長(産業医) 甲斐沼孟 医師 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月より現職。 消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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