体型も影響する?胃下垂の症状となりやすい人の特徴

日々の生活でなんとなく食欲が湧かず、食べてもすぐに腹部膨満感を引き起こす、あるいは食後に下腹部がぽっこり突出するのが気になっているという場合には、もしかしたら胃下垂や胃アトニーに伴う症状かもしれません。
ここでは胃下垂の症状となりやすい人の特徴について解説します。
胃下垂と胃アトニー

胃の精密検査を実施して、胃角(胃下部の曲がり角)が骨盤部よりも低い位置にある場合は胃下垂の状態です。また、胃下垂が原因となって胃の筋肉がたるんだ状態を胃アトニーといいます。
胃下垂は、胃が骨盤よりも垂れ下がることで胃の蠕動運動が通常よりも弱くなることによって胃アトニーを併発しやすいと指摘されています。
胃アトニーは胃の筋肉が全般的にだらりと緩んで胃の動きが悪くなり、食べ物を十分に消化できないため、太りにくい体質になります。
胃アトニーを引き起こす主な原因が胃下垂であることから、胃下垂といえば太りにくく痩せている人を思い浮かべる場合が多いということになります。
胃下垂は自覚される症状が乏しい場合が一般的ですが、胃の消化能力や蠕動運動が低下して消化不良に陥ることも見受けられますし、胃アトニーを併発すると、胃もたれなど不快な症状が出現することもあります。
胃下垂の症状

胃下垂だけの状態においては、有意な自覚症状はほとんどないと認識されていますが、胃アトニーを合併すると、胃の動きが悪くなり消化不良に伴って胃もたれや胃痛、ゲップ、胸焼け、嘔気、食欲不振、食後の腹部膨満感などの症状が出現します。
胃下垂や胃アトニーの場合、いくら食べても太らないのでうらやましがられる傾向がありますが、本人は消化不良に伴う胃もたれや胸やけ、腹部膨満感などを日常的に自覚し、摂取した食べ物が胃につかえて気分が悪くなるなどの症状に悩まされています。
日々の生活において、いくら食べてもお腹がいっぱいにならない症状が認められる際には、胃下垂も原因のひとつとして考えられ、胃下垂によって胃の容量が増えて食べ物の消化が遅くなって満腹中枢に信号が送られにくくなることで満腹感を自覚しにくくなります。
また、毎回の食後には下腹部が突出することがありますので、身体全体の重心が片方に傾いて、自然と姿勢が悪化するなど美容的な苦悩もあります。
胃下垂や胃アトニーは、日常生活において重大な支障となる有意な自覚症状がなければ基本的には悪い疾患ではありませんが、胃の動きが悪化して、胃もたれや腹部膨満感など不快な症状を出現する場合には生活の質が低下することが予測されます。
体型も影響する?胃下垂になりやすい人の特徴

胃下垂を引き起こす原因としては、生まれつきの筋肉が虚弱である体質、性格的に神経質などが挙げられており、血圧が低値傾向の方で胃下垂が認められやすく、男性よりも女性のほうが胃下垂になりやすいと言われています。
一般的に、体つきが細い女性に胃下垂が多いのも特徴のひとつです。
それ以外にも甲状腺機能亢進症や下垂体機能低下症などを始めとするホルモンの病気を抱えている人や腹部手術や出産を繰り返して経験している方において、通常よりも胃下垂が認められやすいと考えられています。
胃下垂は、胃を支持している周囲の筋肉や内臓脂肪が少ないやせ型で背が高い細身の体型の場合に発症しやすいと考えられていますし、もともと太っていて急にダイエットなどで痩せた人や出産経験の多い女性にも認められる傾向があります。
その他にも、普段から暴飲暴食をすることが多い、食事中に食べ物を噛む回数が少ない、猫背など日常における姿勢が悪い、刺激物が嗜好品である、食事時間が不規則で過度のストレスを抱えている場合には胃下垂を引き起こす割合が高いのでじゅうぶん注意しましょう。
胃下垂につながる病気
胃下垂や胃アトニーの場合には、そのほとんどが遊走腎、脱肛、子宮脱、ヘルニア、筋無力症などを含めて内臓全体の下垂と共に引き起こされると考えられています。
日本消化器病学会によると、胃もたれや胸やけなど胃下垂や胃アトニーでも認められる症状を呈する際には、慢性胃炎や逆流性食道炎などの疾患も鑑別に挙げる必要があるとしています。
夜間に食べた物が逆流して嘔気がひどくなる症状が出現することに伴って睡眠が妨害されるなど、日常生活に多大な影響が認められる場合には、速やかに消化器内科など専門医療機関での検査や治療を実施することが推奨されています。
治療は必要ない? 日常生活の注意点

原則として胃下垂は悪い病気ではありませんので、特別な治療は実施されませんが、胃アトニーの場合には規則正しい食生活を送ることが重要です。
具体的には、食事療法として胃への負担が少ないように1回の食事量を少なくする、消化の良いものを食べる、日々の食事を1日4〜6回に分けて栄養価の高いものを少量ずつ摂取するなど食生活に関する生活指導が行われます。
また、胃下垂は普段から猫背の姿勢をとる人に多いのも特徴的であり、猫背によって体が前屈みになって上半身の重量によって胃が上部から物理的な圧迫を受けることで胃下垂になりやすいと考えられています。
日常的に猫背を改善するために適切な姿勢を心がけ、腹筋や背筋など体幹の筋肉を鍛えることで胃下垂に伴う症状が軽快する可能性があります。
また、胃の蠕動運動を良好にする薬が有効に働くこともありますし、胃下垂の体質を改善させる漢方薬などを活用して胃もたれなどの症状が改善する効果が発揮される可能性もあります。
胃下垂に用いられる漢方薬
胃下垂や胃アトニーに対する代表的な漢方薬としては、普段から元気がなく疲れやすく体力や筋力の虚弱な体質の方に対して補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が有効的な効果を発現できると期待されます。
また、慢性的に胃がつかえて気持ちが悪く手足がよく冷えるような体質の場合には大建中湯(だいけんちゅうとう)、そして日常的に体力が乏しく、食欲不振や貧血、消化不良、下痢など慢性的な胃腸虚弱体質の場合には六君子湯(りっくんしとう)が役立ちます。
まとめ
これまで胃下垂の症状となりやすい人の特徴などを中心に解説してきました。
胃下垂は基本的には悪い病気ではありませんので、日常生活になかで重大な支障がない程度の症状であれば、急いで治療する必要性は低いと思われます。
腹筋を鍛える運動療法を継続する、あるいは規則正しく食事を摂取する生活を実践すると胃下垂が改善して正常な位置に戻ることも想定されます。
また、胃下垂を改善したい場合は、日々の姿勢を正す、睡眠時間を十分に確保する、早食いをせずに暴飲暴食を避けることなどの方法を試してもよいでしょう。
セルフケア対策を実施しても、胃もたれや嘔気、腹部膨満感などの症状が重くて改善を認めない場合には、消化器内科や胃腸科など専門医療施設を受診して相談しましょう。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」