皮膚の赤い斑点と肝臓の関係は?増えているアルコール性肝障害

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明らかな皮膚科領域の疾患がないにもかかわらず、皮膚に赤い斑点が現れる場合には肝臓の機能低下が疑われます。ここでは皮膚の赤い斑点と肝臓の関係や、増えているアルコール性肝障害について解説します。

皮膚の赤い斑点と肝臓の関係

皮膚の赤い斑点の原因としては、次に紹介する手掌紅斑やクモ状血管腫の可能性が考えられます。

手掌紅斑

手掌紅斑とは、肝疾患や肝硬変を抱える患者さんにみられる皮膚所見のひとつです。

主に手掌(手のひら)、特に母指球(親指の付け根にあるふくらみ)、小指球(小指の根本付近で盛り上がっている部分)および指の基節部に認める紅斑であり、圧迫すると消失し、圧迫を解除するとすぐにまた赤くなるという特徴があります。

手掌全体の皮膚の色調は、手を心臓の位置より下方に置くと血流移動によって手掌全体の色調は赤くなり、反対に手を心臓の位置よりも上方に置くと手掌全体の色調は白くなります。

手掌紅班においては、母指球、小指球、指の基節部に紅班が局在するために、相対的に手掌の中心部は白くなります。

実際の診断場面では、五本の指を軽く広げて伸展させて、心臓より高い位置で手掌を診察することによって色調のコントラストを明瞭にして観察します。

クモ状血管腫

手掌紅斑と同様に、肝障害を抱えている患者さんや肝硬変症例において認められる皮膚所見として、クモ状血管腫があります。

クモ状血管腫とは、直径が針頭大から1cm程度の中央の細動脈から多数の細く蛇行した毛細血管が遠心性に広がった皮膚所見であり、顔面や頸部、胸部、上腕部などを含む主に上半身で時折認められる皮膚症状です。

手掌紅斑とともにクモ状血管腫は、肝硬変に伴う内分泌環境の異常、特に女性ホルモンの一つであるエストロゲンの上昇に関連した血管拡張によって認められると言われています。

必ずしも血中エストラジオール濃度が高値の場合のみ皮膚所見が認められるわけではなく、女性ホルモンと男性ホルモンの比率であるエストラジオールと遊離テストステロンの濃度比が皮膚病変の出現に関連していると考えられています。

増えているアルコール性肝障害

アルコールを過剰に摂取することで引き起こされる肝臓病を総称してアルコール性肝障害と呼んでおり、代表的にはアルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変、アルコール性肝がんなどが挙げられます。

アルコールは基本的に肝臓で代謝処理されており、毎日のように大量にアルコールを摂取すると、アルコール分解するための酵素として知られているミクロゾーム・エタノール酸化系物質が活発に働くことが判明しています。

アルコール性肝障害は通常ではアルコールの多量摂取が直接的な原因として知られており、普段から大量に飲酒すればするほど罹患率が上昇しますし、長期にわたり継続して飲酒習慣を継続していれば本疾患を引き起こす危険性が高いと考えられます。

日常的に多量のアルコールを摂取し続けると、肝細胞が変性や壊死を起こして徐々に肝臓の機能を低下させてしまうアルコール性肝障害の状態に陥ります。

アルコール性肝障害においては、まずアルコール性脂肪肝を発症し、少しずつアルコール性肝炎へと病気が進行して、最終的にはアルコール性肝硬変へと進展し、重篤な状態となる可能性が指摘されています。

肝臓という臓器内においてアルコールを分解する機能は生まれ持った遺伝的な要因によって個々に違いがあり、アルデヒド脱水素酵素(略称:ALDH)と呼ばれるアセトアルデヒドを分解する酵素の有無などの影響を受けます。

このような飲酒量、飲酒期間、あるいは遺伝的要素以外にも、性差による罹患率の相違も指摘されており、特に女性の場合にはエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの影響で男性よりもアルコール性肝障害を発症しやすいと考えらえます。

肝臓機能が低下しているときのサイン

肝機能障害(肝機能異常)とは、何らかの原因で肝臓が障害をうけ炎症が起こり、肝細胞が壊されるため、血液検査で主にAST、ALT、γGTP、ALP、LDH、ビリルビンなどの数値が高くなる状態を指しています。

発症初期には明確な自覚症状がほとんどないため、健康診断や人間ドックで指摘されることが多く見受けられます。

肝臓は右わき腹の肋骨内側部に位置しており、人間の体の中で一番大きな臓器であり、成人の肝臓重量は約1.4kg前後と言われています。

肝臓の主要な働きは大きく3種類存在しており、必要な物を作る(精製)、必要な物を貯める(貯蔵)、不要なものを処分する(解毒)役割を有しています。

肝臓の一部が傷ついても、他の部分でカバーすることができるとても強い臓器でもありますが、肝臓機能が低下している際には全身が疲れやすくなったなどの症状を認めることがあります。

それ以外にも、肝機能低下を示すサインとしては、最近お酒を美味しく感じなくなった、食欲が低下して脂っこいものを欲しなくなった、足や下半身が浮腫を起こしている、腹部全体が張って膨満しているなどの所見を認めることもあります。

肝臓の機能障害を引き起こす原因は、B型やC型の肝炎ウイルス感染、アルコールの多飲、過剰な脂質の摂取や肥満、そして自己免疫の異常など非常に多岐にわたります。

肝機能が著しく低下する状態が継続されると、肝硬変や肝臓癌を発症するリスクも高くなりますし、顕著な肝障害を呈する場合には食道静脈瘤や肝性脳症など命に関わる重篤な合併症を併存しやすくなることが知られています。

まとめ

これまで皮膚の赤い斑点と肝臓の関係性、増えているアルコール性肝障害などを中心に解説してきました。

明らかな皮膚科領域の疾患がないにもかかわらず体がかゆい、あるいは手掌紅斑やクモ状血管腫などの皮膚所見を呈している場合には肝障害を疑います。

また、最近になって吹き出物がでやすくなって肌が浅黒くなる、上半身を中心に赤い斑点が出現するなどの症状が認められる際には、肝機能が低下しているかもしれません。

それ以外にも、眼球結膜が黄染している、肌が黄色く変色している、便が灰色っぽくなるなど黄疸の兆候がある場合には、アルコール性肝障害を含む肝臓病の可能性が疑われます。 

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、一般的に自覚症状が出にくく、症状の出現に気づいた時には肝臓の機能障害が進行していることも多いので、普段から健康診断などで肝臓の数値に異常があった場合には放置せずに医療機関を受診しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

TOTO関西支社健康管理室  室長(産業医) 甲斐沼孟 医師 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月より現職。 消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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